天が降らせた供養の花

晩夏のはな、ナツズイセン

学名:Lycoris squamigera Maxim.
和名:ナツズイセン(夏水仙)
属名:ヒガンバナ属
原産国:中国
分布:日本(本州・四国・九州)
花期:八月
彼岸花の近縁種。花期になると地面から花茎をまっすぐ伸ばし、薄桃色の花を咲かせる。花茎の長さは60cm前後で4~6個の6裂したラッパ状の花がつく。人里近い山野やあぜ道に自生している。なお、英語名リコリス(Licorice)は全くの別種(マメ科カンゾウ属)。
 

 お盆の後、夏の終わりを感じさせる境内の風物詩の一つがこちら、ナツズイセンです。春、葉が茂る時期に花は咲かず、晩夏の花期には葉は枯れているため「葉見ず花見ず」とも呼ばれています。

 また、彼岸花(曼殊沙華:まんじゅしゃげ)の近縁種であり、花の形や先ほどの「葉見ず…」の特徴もそっくりの仲間です。曼殊沙華は『法華経』の巻第一序品によると、お釈迦さまが大乗(自他ともに成仏できる大きな乗り物)の経を説かれた時、天が降らせて供養したとされる四華の一つです。中国に仏教が伝わった際に存在した花に、当時の人々が比定したものとされます。

 ところで皆さんご存じでしたか。

 ヒガンバナ属全ての品種でリコリン(天然の有機化合物:アルカロイドの一種)という毒を持つことを。しかも多量に摂ると人をも死に至らしめる毒です。しかし数日間流水にさらすことで地下で生長した鱗茎(ゆり根の様なもの)は良質な食糧となります。ヒガンバナ属が人里近くに群生しているのは、江戸時代以前、飢饉の際の救荒作物としての役割があったからだそうです。

 毒であったものが転じて人々の助けとなる。お釈迦さまが説かれた大乗のみ教えは、阿弥陀如来のすくいのおはたらき(本願他力)によって、私の煩悩(欲・怒り・愚かさの三毒)を転じて仏のさとりへと至らしめ、他の一切をすくいとる仏となるというみ教えです。


 天が降らせるという曼殊沙華。

 目の前にあるナツズイセンこそがその華なのかも。(以上)

Copyright © 浄土真宗本願寺派 大誓寺 All Rights Reserved.