落ちても離れぬいのちの因果

椿(ツバキ)

学名:Camellia japonica
和名:ツバキ(椿)、ヤブツバキ(藪椿)

漢名:紅山茶(こうさんちゃ)
分類:ツツジ目ツバキ科ツバキ属
原産国:日本
分布:日本(北海道南西部以南)および中国ほか
花期:2月‐4月
濃緑の葉につやがある日本を代表する常緑樹。冬に日陰でも美しい花を咲かせるため観賞用として古来より人気である。
なお、漢名に紅山茶とあるが、飲料としてのお茶の採れるチャノキ(茶樹)は種は異なる同属の仲間である。

寒中のはな

 立春の候、、ではありますが、まだまだ寒いこの時期にひと際健気に咲く花といえばツバキではないでしょうか。寒中見舞いのイラストにもよく使用されていますね。上の画像は北陸など多雪地帯に自生するユキツバキでなく、ヤブツバキの園芸品種(ピンクの千重咲き)です。知人から頂いた芽が3,4年程かけて若木へと生長しました。

仏教寺院とツバキ

 ツバキは日本原産のため、当然ながら経典や仏教説話には見られませんが、寒中にも葉は深緑のつやを保つため、その神聖さから古来日本の寺院や神社に植栽されてきた歴史があります。貴人や武家といった時の権力者らも愛し、それが庶民に広まり多くの選抜品種が交配によって生まれてきました。ここ北陸に自生する変異に富むユキツバキも大いに人気を集めたようです。

落椿の理由(椿の生存戦略)

 落椿(おちつばき)は春の季語で、ツバキの花が散るというより丸ごとぽとりと落ちる様子や落ちた花をいいます。この様が打ち首や落馬を連想させるため武家社会で忌避されて来、現在でも競馬界、病人の見舞いなどの場でタブーとされています。しかしそこにはツバキの生存戦略が隠されていたのでした。

いのちをつなぐため

 ツバキが敢えて冬に咲くのはこの花が鳥媒花(※)であり、食料の希少な寒い時季にメジロやヒヨドリなど蜜を好む鳥を呼び寄せて受粉するためです。

 落椿はツバキの花弁が基部で繋がっているために、花弁が散らずに丸ごと落ちる現象です。もし花弁がゆるく、メジロなどに雄しべを避けるため横からくちばしで花蜜を吸われてしまったら、、、雄しべの花粉がメジロに付着することもありません。つまり、いのちを繋ぐ可能性を低めてしまいます。生存を高めるという進化の結果が落椿という現象なのでした。
 そこには不吉なものなど微塵もない、むしろ鳥と共に次のいのちを繋げるという尊いすがたがあります。

 生命活動が停止したかのような雪国の野山にも、いのちを繋ぐ因果だけはいつも存在しています。

※、鳥類を利用して花粉をはこび、受粉する花。花蜜の量が多く、花托の構造が大きい。花色が赤い品種が8割を占める。

天が降らせた供養の花

晩夏のはな、ナツズイセン

学名:Lycoris squamigera Maxim.
和名:ナツズイセン(夏水仙)
属名:ヒガンバナ属
原産国:中国
分布:日本(本州・四国・九州)
花期:八月
彼岸花の近縁種。花期になると地面から花茎をまっすぐ伸ばし、薄桃色の花を咲かせる。花茎の長さは60cm前後で4~6個の6裂したラッパ状の花がつく。人里近い山野やあぜ道に自生している。なお、英語名リコリス(Licorice)は全くの別種(マメ科カンゾウ属)。
 

 お盆の後、夏の終わりを感じさせる境内の風物詩の一つがこちら、ナツズイセンです。春、葉が茂る時期に花は咲かず、晩夏の花期には葉は枯れているため「葉見ず花見ず」とも呼ばれています。

 また、彼岸花(曼殊沙華:まんじゅしゃげ)の近縁種であり、花の形や先ほどの「葉見ず…」の特徴もそっくりの仲間です。曼殊沙華は『法華経』の巻第一序品によると、お釈迦さまが大乗(自他ともに成仏できる大きな乗り物)の経を説かれた時、天が降らせて供養したとされる四華の一つです。中国に仏教が伝わった際に存在した花に、当時の人々が比定したものとされます。

 ところで皆さんご存じでしたか。

 ヒガンバナ属全ての品種でリコリン(天然の有機化合物:アルカロイドの一種)という毒を持つことを。しかも多量に摂ると人をも死に至らしめる毒です。しかし数日間流水にさらすことで地下で生長した鱗茎(ゆり根の様なもの)は良質な食糧となります。ヒガンバナ属が人里近くに群生しているのは、江戸時代以前、飢饉の際の救荒作物としての役割があったからだそうです。

 毒であったものが転じて人々の助けとなる。お釈迦さまが説かれた大乗のみ教えは、阿弥陀如来のすくいのおはたらき(本願他力)によって、私の煩悩(欲・怒り・愚かさの三毒)を転じて仏のさとりへと至らしめ、他の一切をすくいとる仏となるというみ教えです。


 天が降らせるという曼殊沙華。

 目の前にあるナツズイセンこそがその華なのかも。(以上)

イオンは慈雨とともに

境内のアジサイが見頃です

境内にはアジサイが多く植わっていますが、
がくが大きく丸く発達したホンアジサイは石段の一角にのみあります。

大誓寺のホンアジサイは毎年必ず青色の花を咲かせます。
みなさま、不思議に思われませんか?
同じ在所であってもあちらは赤、こちらは青、赤青混こうというお宅もあります。

調べてみますと、
「土壌が酸性だとアルミニウムがイオンとなって土中に溶け出し、アジサイに吸収されて花のアントシアニンと結合し青色を呈する『Wikipedia』」
とのことです。。??

ちょっと分かりづらいので、身近なお仏法で言い換えてみます。

「土壌が酸性だとアルミニウムがイオンとなって土中に溶け出し」
訳:釈尊が世に現れて下さりその大智大悲をもって真実の法を説かれた。それは濁世の人心に慈雨のごとく染みわたった

「アジサイに吸収されて花のアントシアニンと結合し」
訳:法にしたがい、まことの心と正しい行ないの実践をお勧めになり、疑いなく聞き受けた者はその身に功徳が満ちみちて

「青色を呈する」
訳:やがてさとりの華がひらくのである

。。ちょっとムリがありました。。

アジサイは放っておけば赤になる。イオンを受け取れば青になる。
私は放っておけば地獄の鬼に、、如来さまのお心を受け取ればすくいの仏に。


お釈迦さまがお説きになった真実の法が慈雨のように私の身に染み入り、大悲のお心を届けてくださいます。

山の僧侶が法を説く⁉

5月、植え付け後一年のヤマボウシに花(苞葉)が咲きました。
昨冬の雪で根本近くから折れ、樹皮一枚で何とかつながっていたものが。。
皮一枚、針金と支柱で何とか起き上がっています(写真3枚目)。

もう立ち上がる事ができないほどの挫折や喪失を経ても、いのちは思いのほか力強く、
また、必ず何かに支えられている。
そして何より、いつも日光が照らしてくれています。

ちなみに、ヤマボウシは山法師と書き、
花弁に見える白い苞葉群を僧侶の白い頭巾に見立てているそうです。
ヤマボウシはその生き様で仏の法を説いてくれているようです。

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