ヒラドツツジ


学名:Rhododendron ✕ pulchrum
和名:ヒラドツツジ(平戸躑躅)
分類:ツツジ目ツツジ科ツツジ属
分布:日本全国
花期:4月‐5月
長崎県平戸に由来するツツジの交雑種である。冬でも枝先の葉が残る半常緑低木。大輪で美しい花を咲かせる。樹高が100cm~300cmと比較的高く地際から密に生えるため、庭木のほか生け垣、街路樹にも利用され親しまれている。
立ち止まりたくなる美花
4月頃から生命力いっぱいの若芽や花が至る所に見られるようになりましたが、5月に入り境内でにわかに目を惹くようになったのがツツジです。
ツツジはアジア各地に自生し、古来日本においても寺院や武家屋敷などに植えられ親しまれてきたようです。平戸の地は遣隋使派遣の時代からの海上交通の拠点でしたから、自然と海外や日本各地から多品種のツツジが持ち込まれ交雑交配が進み、ヒラドツツジは現在のような密に枝葉が茂り、大輪の美しい花を咲かせる品種となりました。
その美花ぶりは名前にも表れています。
属名 “Rhododendron” の “rhodon” は古代ギリシア語で「バラ」、”dendron” は同様に「樹木」の意。種小名 “pulchrum” はラテン語で「美しい」を意味します。
さらに漢名で書くと “躑躅” ですが、”躑(てき)” も”躅(ちょく)” もどちらも「行き悩む」「行きつ戻りつする」の意味があります。諸説あるものの、花が美しく目を惹くため、足を止める人が多かったことに由来するようです。別の用事に早めていた足がふとその美しさに立ち止まり、戻りさえする、、、ツツジが全国各地にひろまったことにも深く頷けます。
美意識は土壌、執着はタネ
上記の「躑」「躅」の意味で「行き悩む」とあります。なるほど、美を見出すことは喜びでもあり悩みでもあるのですね。美に限らず価値ありとするほど、そして、より儚いものほど見る人の悩ましさは強くなるのではないでしょうか。
たとえば、各季節、ツツジの花、サクラの花、夏の蝉(セミ)、カゲロウ(成虫としての一生)、シャボン玉、そしてヒトの一生。。。
お釈迦さまならば「執われてはいけない」と仰せになるでしょう。
悩み(苦果)を産み出す土壌(美意識)は持っていても、執着というタネ(苦因)をまいてはいけない、その事を満開のヒラドツツジを通して語りかけてくださいます。
花びらは散っても花は散らない
では美しい花を愛でるな、と仰せなのでしょうか。
そうではありません。
浄土真宗の僧侶であった金子大榮師の法語に、
「花びらは散っても花は散らない 形は滅びても人は死なぬ」
というものがあります。
私が美しさを感じているツツジは主に花びら満開のツツジです。しかし花びらを付ける前には蕾(つぼみ)があり、花びらが散った後は次の花芽や果実ができ、緑豊かな葉が生い茂るのです。花びらは散ってもなお生き、花のいのちは繋がれていく。
花咲く時期も、新緑の時期も、結実の時期も、そして落葉の時期も、一瞬一瞬がすばらしい。それは人のいのちも、きっと。